言葉のいらない世界
幼いころから、
ぼくは憧れ続けてきた。
言葉のいらない世界を。
言葉なんかなくっても、
海のように溶けあって、
ひとつになって、
不安なんか少しも感じない世界を。
ぼくは、そうして「ものかき」になった。
いまぼくは、
言葉によって、
その世界に辿り着こうとしている。
それは不可能かもしれないが、
不可能だと誰が断言したわけでもない。
証明してみせたわけでもない。
東京で生きていたときは、
「愛」は語られなければ分からないものだった。
けれどもいまは、
触れあうだけで分かる。
やっとここまできた。
それは、やっとぼくが、
抱きしめたいほど愛しいものを見つけたからだ。
そして、その「もの」とは、
この世界のすべてだった。
生きること。
やがて死を自覚しながら生きること。
そのときに「愛」は生まれた。
今夜も幼い君たちとふざけあい、
触れあいながら、
その愛しさをぼくは手放さない。
抱きしめて、
君は「またね」って手を振った。
ああ、またね。
愛しい君たちよ。
ぼくはこの血の熱さを君に伝えて、
君は受け取ったことだろう。
そんなふうに、
ぼくは今日を生きている。
幸福な人生を。